事業承継とは

事業承継とは

将来の事業承継の認識

オーナー企業を経営するオーナー経営者において、いつまでも経営を続けたいと思う方もいるかも知れませんが、現実的には加齢によって経営意欲が低下する、体力の低下で以前の様には対応できなくなる、あるいは疾病等や加齢によって最終的に経営が出来なくなることは人間として不可避です。

そこで、企業を存続させるのか、あるいは廃業させるのかを選択しなくてはいけません。

企業を存続させる場合には次世代の経営者を予め決めておかないと、決定前にお亡くなりになった場合には、残されたご遺族の方々、企業の従業員の方々、取引先の方々を巻き込んだ混乱を招く事も少なからず生じます。

事業承継の選択肢

そこで、予め企業の将来を現経営者が決めておく事が肝要ですが、以下のような選択肢があり、それぞれの利点や問題点を整理して最良の方法を選択して、それに向けた準備を早めに整えておく必要があります。

その際に、オーナー企業であると一体ゆえに忘れがちですが、企業には所有者と経営者が存在する事を認識して、それぞれについて考えておく必要があります。

1.親族

現経営者の子息や息女、あるいは兄弟姉妹、甥姪に承継させる事であり、一般的には自らの親族に承継して欲しいと望む方は多いかと思います。

また、適任の候補者であり、その準備を適切に進めているのであれば、従業員、取引先、金融機関などからは新経営者としての理解は得やすいです。

更に、生前贈与、事業承継税制、相続などによって所有権の承継もスムーズに進めやすいです。

しかし、複数の子息・息女、または子息・息女と甥姪など複数の候補者が存在する場合には、所有権と経営権について事前にしっかりと準備をしておかないと事後の混乱を招く事にもなりかねません。

例えば、複数の子息・息女が存在するからと、法定相続通りに平等に株式を承継させると、当然に株式の配分比率に応じて権利が生じますので、現在良好な関係だからと言って、将来意見が対立した際にはどうなるでしょうか。

あるいは子息・息女が経営権を承継しないからと、甥姪を新経営者としても株式をそのままにしておいては、相続の際にはそのままにしておくと甥姪には株式は相続されません。

これらを解決するためには、事前に遺言書を作成しておく、種類株式を発行して支配権と財産権を分離しておく、株式に代わる相続財産を準備して株式を承継しない親族を納得させるなどの方策を事前にしっかりと準備する必要があります。

2.役員・従業員

候補となる親族がそもそも存在しないケース、候補となる親族は存在するものの現経営者の意向で承継させたくないケース、または、候補者が別の仕事などをしており承継の意向が無いケースなどもあります。

この場合には、親族以外の役員・従業員に新経営者として承継してもらう事も検討します。

適任な候補者が存在する場合には、企業文化や企業の構造を充分に把握している為に、他の従業員や取引先などから理解は得やすいです。

しかし、企業の債務に対して現経営者が個人保証をしている場合には、役員・従業員が充分な与信力を有しているケースは多くなく、金融機関が難色を示す事も想定されます。

また、所有権の問題も残り、株式を買い取るにも現経営者と利害が対立する交渉をする必要があり、更に買い取りの為に少なからぬ資金を手当てして、その後のリスクも負担する事になります。

株式の買い取りを行わない場合には、現経営者が株式を所有し続ける事になりますが、その場合には現経営者の意向を受けた経営になる、あるいは現経営者が新経営者に口出しをしなくても、相続が発生した場合に相続人がその意向を継続しない場合もあり得ます。

3.外部招聘、第三者に経営を委託

親族、役員・従業員に承継候補者が存在しない場合には、社外から適任の人材を招聘する事も検討します。

この方法は、親族への承継を検討しているものの、候補者が若年等により現時点ではそのまま承継出来ないケースなどには、所有権の問題も発生しないので有効な手段と言えます。

しかし、無期限と考えると、役員・従業員に承継する場合と同様に所有権の問題も解決する必要があります。また、外部からトップが来ることで現役員・従業員のモチベーションに与える影響も検討する必要があります。

そもそも、大企業であっても従業員から役員になるケースが多く、経営の専門家の不足が指摘されている我が国において、外部から適任の人材を適時に招聘出来るかという問題が一番の課題かも知れません。

4.M&A、第三者へ売却

親族、役員・従業員による承継、外部から経営者の招聘を行わない場合には、第三者に企業を委ねる、所謂M&Aも検討する必要があります。

また、承継候補者が存在する場合にはM&Aのメリット・デメリットを充分に検討の上で比較検討する事も必要かと思われます。

M&Aと言うと「身売り」「乗っ取り」の様なネガティブなイメージを持たれることも少なからずあるかと思いますが、M&Aにおいては企業毎に状況は全て異なりますので、事前の交渉によって柔軟な条件交渉が可能です。

条件とは金銭的な多寡のみではなく、例えば、前述した親族、役員・従業員への承継において、所有権が問題になる場合には、所有権を第三者に取得してもらい、現経営者自身、あるいは現経営者が指名した者が経営を継続するケースも少なからず存在します。

また、M&Aの相手方にとっては取得した株式の価値が向上、または収益が向上しなければ意味がありませんので、相互のシナジー効果、経営支援機能、硬直した従業員の目標見直し等によって、当該企業自身の成長を果たし役員・従業員、取引先、金融機関にメリットをもたらす事も期待できます。

更に、現経営者にとっては個人保証の負担から解放され、いままでの企業成長の果実を、柔軟に利用・分配が可能な現金化できるメリットがあります。

しかし、M&Aの相手の選定を誤ると、期待していた役員・従業員、取引先、金融機関に対するメリットが限定的になるリスクがあります。

また、交渉には少なからぬ時間を要し、必要な資料の準備にも手間がかかり、更には時間・手間を要したのに成約に至らないケースもあります。

その為にM&Aの検討においては適切な仲介者・アドバイザーを介して慎重に行う必要があります。

5.廃業・清算

親族、役員・従業員による承継、外部から経営者の招聘、第三者へのM&Aのいずれも選択しない場合、あるいは現経営者が望む場合には、企業の廃業・清算を選択する事となります。

手続としては現経営者が判断すればいつでも行えますが、突然廃業を公表すれば役員・従業員、取引先、金融機関に対して多大な迷惑をかける事になります。

業績不振による企業継続の断念で無ければ、関係者に対しては次の就労先、取引先を準備し、負債の清算を完全に行うなどの準備を行う必要があります。